ART(Assisted Reproductive Technology)とは、タイミング法や人工授精などの不妊治療より、高度な生殖技術を用いた、体外受精(IVF)や顕微授精などの医療技術のことを言います。
妊娠が成立するには、精子・卵子の形成から、精子と卵子の受精、受精卵の分割・発育、そして着床など、実に多くの複雑なシステムがすべて順調に機能することが必要です。
ARTの技術は、なんらかの理由で不妊となっているカップルの原因を技術的に補助することを目的とし、生殖補助医療の技術は進歩してきました。
体外受精はARTの代表的な技術の一つですが、これは卵巣に育った卵胞を採卵し、体外で卵子と精子を受精させ、数日間培養した受精卵を子宮に移植して妊娠させる治療法です。
この方法は1978年に英国で初めて実施され、世界初のIVFベイビーが誕生しました。
女性の両卵管が閉塞していたため、「体内で夫の精子と妻の卵子が出会えないなら、体外で出会えるようにしよう」とIVFの治療が始まりました。
試験管ベイビーなどと呼ばれましたが、日本でも1983年に実施されて以来、急速に普及してきました。
この高度生殖技術により、人工授精では妊娠に至らなかった高度の乏精子症や免疫性不妊症、両側卵管閉塞などでも治療が可能になりました。
IVFの導入は不妊治療に大きな影響を与えたのですが、このIVF技術を用いても精子の状態が良くないために受精卵が出来ないケースもあります。
そこで、IVFでは授精自体は精子と卵子による自然受精でしたが、人為的に精子を卵子に注入して受精させる顕微授精(ICSI)という新たなART技術を導入しました。
ICSIは、1992年にベルギーで精子を顕微操作によって卵子の中に直接導入する技術を用いて受精を成功させ、健康な赤ちゃんを授かることに成功しました。
現在では世界中の不妊治療クリニックで使われている技術で、通常の体外受精では難しい高度の男性不妊症の状態であっても、受精させることが可能になりました。
また、遺伝病を検査する方法としては羊水検査による出生前診断が一般的でしたが、今日では体外受精による受精卵を数日培養させ、その受精卵の細胞の遺伝子や染色体を解析し、遺伝病や流産の可能性を診断する着床前診断が可能となりました。
出生前診断では胎児の異常が判明した時に、人工妊娠中絶につながる可能性が高いことが問題とされてきました。
しかし、着床前診断では妊娠前に受精卵の検査を行い、異常がないと判断された受精卵を移植することから、人工妊娠中絶を回避できるという利点があります。
その他には、1983年に受精卵の凍結保存が出来るようになり、移植予定受精卵以外に質の良い受精卵がある場合や、子宮内膜が不良でその周期に胚移植をすることが出来ない場合に受精卵を凍結保存し、別の周期に移植を行う方法も確立されました。
最近では、受精する前の卵子(未受精卵)も凍結保存をすることが可能になりました。
また、培養技術の進歩と共に胚盤胞移植やアシステッドハッチング等の技術も開発されました。
このように、「この技術が実現出来たら」と切望されたそれぞれのART技術は、不可能だったことを可能にしてきました。
最近では、iPS細胞の不妊治療への応用が期待されています。
技術の進歩と共に、これまでは治療が行えなかったケースでも、治療が可能になるかもしれませんね。