出自を知る権利
皆さんは出自を知る権利を知っていますか?
最近「出自を知る権利」という言葉を耳にする事が多いですが、出自を知る権利とは何でしょうか。
「出自を知る権利」と同じ意味で、下記の二つのような表現が使われる事もあります。
「第三者から配偶子等の提供を受けて生殖補助医療によって生まれた子が、遺伝上の親について知る権利」
「子の出自を知る権利」
出自を知る権利とは
「出自を知る権利」は1989年に国連総会で採択された子どもの権利条約第7条1項に以下のように規定されています。
子どもの権利条約
第7条
1.児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。
『子どもの権利条約』は1989年の国際連合総会において採択され、1990年に国際条約として発効しました。
日本は1990年に署名し、1994年に批准しています。
出自を知る権利に関する年表
出自を知る権利に関する年表をまとめました。
年代 | 国名 | 内容 |
1917年 | スウェーデン | 非嫡出法、養子及び嫡出法の3つの法律 |
1953年 | ヨーロッパ | ヨーロッパ人権条約 |
1969年 | ドイツ | 非嫡出子法 |
1984年 | イギリス | ウォーノック・レポート |
1985年 | スウェーデン | 出自を知る権利の法制度化 ⇒匿名性の廃止 |
1988年 | オーストラリア(ビクトリア州) | 法律施行 |
1990年 | 国連 | 子どもの権利条約発効 同年 日本署名 |
1990年 | イギリス | 1990 年ヒトの受精及び胚研究に関する法律(HFE法) |
1992年 | オーストリア | 出自を知る権利の制定法 |
1994年 | オーストラリア(ビクトリア州) | 出自を知る権利の制定法 |
1998年 | スイス | 出自を知る権利の制定法 |
オーストラリア(ビクトリア州) | 匿名性の廃止 | |
2002年 | イギリス | ウォーノックが匿名について言及 |
2003年 | 日本 | 15歳以上になったらドナーの個人情報の開示を請求できる ⇒法制化ならず |
2004年 | イギリス | 2004 年 HFEA(提供者情報の開示)規則 ⇒匿名性の撤廃 |
ニュージーランド | 出自を知る権利の制定法 | |
2006年 | フィンランド | 出自を知る権利の制定法 |
2008年 | イギリス | 2008 年ヒトの受精及び胚研究に関する法律 改定 ⇒法的な親子関係への言及 |
2010年 | オーストラリア(ビクトリア州) | 出生証明書に提供の事実を記載 |
2015年 | イギリス | HFE法 改定 ⇒個人情報の開示に同意したドナーのみ提供可能 |
2017年 | オーストラリア(ビクトリア州) | ドナーの匿名性廃止 |
2018年 | ドイツ | 精子提供で生まれた子についての法律施行 |
軽い気持ちで調べ始めましたが、予想外に多くの情報を収集する事になりました。
全ての詳細を確認した訳ではありませんが、
①比較的新しく認識された
②社会的状況に合わせて変遷してきており、今も変化している
権利であるという事が言えそうです。
ドナーの非匿名の国について
現時点で卵子/精子提供者を『非匿名』としている国々について調べました。
<イギリス>
1984年 ウォーノック・レポートが出自自を知る権利について言及。『子が18歳以上になったら基本的な情報(提供者の民族や遺伝健康状態など)を知らせるべきであるが、親子関係の安定と精子提供者の確保の為、匿名性は保たれるべきである』とした。
1998年 チルドレンズ・ソサエティが養子同様に第三者の配偶子提供児の出自を知る権利を求める。
2002年 ウォーノックも20年前と社会が異なり遺伝子検査などできる時代になったことで匿名性について言及
2015年 個人情報の開示に同意したドナーのみが配偶子提供可能となる
<オーストラリア・ビクトリア州>
1988年 1988年1月以降提供配偶子から出生した子が18歳以上であれば、個人を特定しない提供者情報にアクセスが可能とする法律施行
1998年 1998年1月以降提供配偶子から出生した子が18歳以上であれば提供者の身元を特定する情報にアクセスが可能とする法律施行
2010年 出生証明書に提供の事実を記載
2017年 ドナーの匿名性の廃止
上記の通り、イギリスやオーストラリアでは、ドナーの匿名性が撤廃されています。
匿名性が議論されてから撤廃まで、どちらの国でも10年以上の時間がかかっています。
そしてどちらの国でもドナーの匿名性の議論に先んじて、養子の出自を知る権利が定められていました。それらの事が現在の状況を後押ししているように感じました。
匿名から非匿名へ
日本では、提供配偶子を用いた生殖補助医療にかかる議論の中で『匿名か非匿名か?』に絡めて出自を知る権利が語られる事が多いように思います。
その点でいえば、1980年代までは精子提供は匿名で行われることが当然とされていました。
卵子提供においても数年前までは、匿名である方が良好な親子関係を築けるとされてきました。
しかし現在は技術の発達により、遺伝的親子関係が簡単に鑑定できるようになりました。
ドイツではDNA鑑定の結果を元に提供配偶子を用いた子の法的父親が、嫡出否認訴訟を起こしました。
この事例のように、非開示にすることが親子関係の不安定にする可能性が出てきました。
そのような背景もあり、ドナーの匿名性廃止が進んでいます。
匿名性を義務付けている国
一方でドナーの匿名性を義務付けいる国もあります。
中国・台湾・スペイン・イタリアです。
台湾はドナーに関して限られた情報しか得ることが出来ません。それ故に近親婚を避ける仕組みを整えました。提供卵子/精子を用いた不妊治療は、政府の登録機関に登録されています。出生した子は、結婚を希望する相手と自分の遺伝的なつながりの有無をこの機関に問い合わせる事ができます。出自を知る権利は、生まれてきた子及び提供者に配慮しなければならないとされています。
日本は『子どもの権利条約』に従い、また先行するイギリスやオーストラリアも参考にしながら、段階的に匿名性の廃止に向かう法整備の姿勢になっていくのではないかと思います。
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