胚の新たな評価法となる可能性のある研究

こんにちは。
8月後半になっても暑い日が続き、早く秋が来てほしいと思う日々です。
本日は、横浜市立大学が胚の新たな評価法となる可能性のある研究結果を発表している記事について取り上げます。

横浜市立大学附属市民総合医療センター生殖医療センター(現 臨床研究部)伊集院昌郁助教、同センター 村瀬真理子准教授、藤田医科大学医科学研究センター分子遺伝学研究部門 倉橋浩樹教授らの研究グループは、ヒトの胚1発生とミトコンドリアDNA(mtDNA)2の関係性に着目し、mtDNAに存在する変異の数と、着床後胚発生について研究を行いました。着床後胚発生において良好な経過をたどる胚や、正常染色体として発生する胚ではmtDNA変異の数が少ないということを発見しました。今後、胚の新しい評価方法につながる可能性や、更なる研究により妊娠率向上への貢献が期待されます。
本研究成果は、「Frontiers in Cell and Developmental Biology」に掲載されます。(日本時間8月11日オンライン)

研究成果のポイント
胚のミトコンドリア機能を調べるためmtDNA変異の数に着目し、体外培養系で着床後発生を評価した。
良好な経過をたどる胚、正常染色体として発生する胚では、mtDNA変異の数が少なかった。
本研究成果は不妊治療などにおける新たな胚の評価方法に発展する可能性がある。

研究背景
生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology、ART)は不妊治療における重要な治療方法として世界的に行われています。ARTでは体外受精-胚移植3で得られた胚の中で、どの胚を移植するかを選択する必要があります。しかしながらどの胚が妊娠に至るかは、従来から行われている形態学的評価4だけでは判断できず、異なる評価の方法である着床前診断5が世界的に普及しました。そしてその結果、モザイク胚6の一部は、発生過程で正常胚になり、出産まで至ることがわかってきました。しかし、その背景にはまだわからない事が多くあり、どのような場合によい経過をたどるかの予測はまだ不完全です。そこで細胞のエネルギーを産生し、胚発生にも重要とされるミトコンドリアに注目しました。
ただ、ミトコンドリアの能力を直接評価するためにはたくさんの細胞が必要であり、胚一つ一つで評価することは困難とされています。しかし、ミトコンドリアが内部に保有する独自のmtDNAは、1細胞にも多量に含まれるため、胚から数個の細胞を生検することで解析が可能です。このmtDNAには、ミトコンドリアがエネルギーを産生するために必要なたんぱく質の情報が存在し、mtDNA変異はミトコンドリア機能に影響する場合があるためミトコンドリア機能の間接的な指標となりえます(図2)。

研究内容
本研究は、不妊治療ではもう使用出来ないことになった胚のmtDNAに存在する変異の数と着床後胚発生の経過の関係性について体外培養を用いて評価しました。胚盤胞から一部の細胞(培養前検体)を採取(生検)してmtDNA・染色体を解析するのと並行して、胚の残った部分を使って体外培養を行いました。それにより細胞が増殖した場合には、増殖した一部の細胞(培養後検体)を回収してmtDNA・染色体を解析しました(図3)。このmtDNA・染色体を培養前後で比較し、培養経過との比較を行いました。
その結果、培養経過が良好であった胚や、培養終了時点で染色体が正常であった胚では、mtDNA変異の数が少ないことが分かりました(図1)。体外培養で判明したことと実際に体内で起きている発生とは異なっている可能性がありますが、今回の結果からモザイク胚だけに限らず、胚の着床後の経過とmtDNA変異数が関係する可能性があるとわかりました。

今後の展開
これまでは、顕微鏡で胚の形を見て評価する形態学的評価方法、胚の染色体を評価する着床前診断などで胚を評価してきました。今回の研究成果は、mtDNA変異を調べるという胚の新しい評価方法につながる可能性があります。そしてそれが実現したならば、移植当たりの妊娠率をより向上し、難治性不妊症患者さんの精神的・経済的負担を軽減できるかもしれません。
しかし、残る課題もあり、実際に利用するためにはさらなる研究が必要です。今回調べた胚のmtDNA変異と、胚のミトコンドリア機能の直接的な関係性はまだわかっておらず、その解明が必要となります。また、今回の研究では胚のmtDNA解析のために一部の細胞を回収(生検)しましたが、今後は侵襲性のない解析方法の開発も重要となります。

https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2023/20230817ijuin.html 横浜市立大学

ミトコンドリアDNAに存在する変異の数と、胚の着床後の経過と関係する可能性があるとわかったことで、新たな評価方法ができる可能性ができました。
モザイク胚の評価はミトコンドリアDNAの変異の数がどのくらいであるとモザイク胚とされるのかが気になるところではあります。
もっと研究が進み、胚評価がこの方法で可能になるころには、そこまでわかるのかと思います。

色んな方法があると治療を受ける側にも選択肢が多くなる為、研究が進むといいですよね。

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